2022年度スクーリング情報: 課題図書紹介
言語文化学科に合格されたみなさん、おめでとうございます。
これからは、大学生活にとって重要な準備期間ともなります。皆さんにはどうか安心また慢心することなく、緊張感をもって残りの高校生活を送り、来春には新鮮な気持ちで大学の門をくぐってください。
お手元に届いた資料を改めてご確認いただくとともに、「課題レポート」中の課題図書については、学科教員が紹介また説明いたします。ご参照ください。
「課題図書 Part1」について
課題図書紹介 【ことばの分析】 担当:岸浩介先生
・黒田龍之助『はじめての言語学』(講談社現代新書、2004年)[電子版も可]
・広瀬友紀『ちいさい言語学者の冒険―子どもに学ぶことばの秘密』(岩波書店、2017年)[電子版も可]
私たちは普段から何気なく「ことば」を使って生活しています。この「何気なく使っている」という事実があるため、「ことば」の使用はいわば「当たり前のこと」として見過ごされがちですが、少し視点を変えて考えてみると様々な問いが浮かんできます。いくつか例を挙げてみましょう。
例えば、私たちは、今まで一度も発したことのない文を発することができますし、今まで聞いたことの無い文であっても理解出来ます。これはいったいなぜなのでしょう。また、私たちは、子供の頃に日本語の文法規則を誰からも教わらずに育ったにも関わらず、自由に日本語を使いこなせています。なぜこのようなことが可能なのでしょう。確かに国語の授業やテレビ番組などで「こういうときにはこういう日本語を使う」という風に「正しい日本語の使い方」を部分的に教わる、あるいは知識として取り入れることはありますが、果たしてその知識だけでこのようなことは可能になるでしょうか。
次に外国語について考えてみましょう。「英語の文を作るときは、こういう順番で単語を並べる」とか「この形容詞はこの名詞を修飾できない」ということは習うことがありますが、「『なぜ』そうなっているか」についてはどうでしょう。「英語の文法にそういう規則があるからだ」という説明を受けることがあったかもしれませんが、ではその「英語の文法」に「なぜ」そのような規則があるのでしょう。また、英語と日本語では多くの相違点が見られると言われますが、共通点は本当に存在しないのでしょうか。
上で述べたような問いに解答を試みるのが言語学の目標です。もちろんここでの問いは、わたしたちの「ことば」について問題にされることのほんの一部であり、様々な問題が「ことばの研究」の考察対象になりえます。これも「ことば」ということば自体がとても広い意味を持っており、各国の文化研究や外国語習得論、さらには脳科学といった様々な領域と密接に関連しているからです。スクーリングの課題図書として挙げた2冊は、この「ことばの研究」という極めて幅広い学問領域に最初の一歩を踏み出すための良いきっかけとなります。1冊目の『はじめての言語学』では、まさに「ことばの研究」がどのようなものかがわかりやすく説明されていますし、2冊目の『ちいさい言語学者の冒険』を読めば、子どもの「言い間違い」やことばに対する「気づき」を通して、ことばが持つ規則性を垣間見ることができます。これらの本を出発点にして「ことば」に対する理解を深めれば、言語文化学科でのより深い学びにつながるでしょう。
課題図書紹介 【考えること・表現すること】 担当:文景楠先生
・野矢茂樹『はじめて考えるときのように』(PHP文庫、2004年)[電子版も可]
・山田ズーニー『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(PHP新書、2001年)[電子版も可]
「考えること」と「表現すること」は、どちらもありふれたことに思えます。この文章を読んでいる皆様は、日々何かを考え、そして表現しているはずです。例えば、「お腹が空いた」と頭で考え、「ご飯が食べたい」と誰かに向かって表現することがそうです。すでにできている当たり前のことなら、大学に入ってまで学ぶ必要はあるのでしょうか?
とはいえ、「じゃあ「考えること」や「表現すること」ってなんですか?」とまじめに聞かれると、なかなかいい答えは浮かんできません。それに、「きちんと考えなさい!」や「分かるように表現しなさい!」といった小言を聞いた経験を思い出してみてください。そういうときに、いったい何をどうすればいいのかがわからず、困ったことはありませんか?だとすれば、私たちは結局、「考えること」や「表現すること」が本当は何なのか、よくわかっていないようです。
東北学院大学で先に学んでいる大学生のお姉さんお兄さんたちも(本当のことをいうと先生の私も)、「自分の考え」をもち、それを「他人にわかるように表現」するために苦労しています。今回の課題図書2冊を通して皆様にお願いしたいのは、「考えること」と「表現すること」という一見当たり前でありふれた事柄に対する自分の無知を認め、それに少しばかりゆっくり向き合ってみることです。ちなみに、どちらの本も高校生の皆様に十分楽しく読んでいただけるものを選びました。ぜひ安心して取りかかってください。
2冊の本はスタイルがかなり違います。共通しているのは、どちらにも「こうすれば満点」といえるような安直な答えは用意されていないという点です。そもそも大学での学びは、正解が用意されているテストのようなものではないのです。大学の先生は、以前にも増して皆様に「君の考えは?」や「もっときちんと表現してくれませんか?」と聞いてくるでしょう。まだイメージがわかないかもしれませんが、とりあえずこの2冊のどちらかを読み、「すっきりしないな。でもなんだか面白そう!」という気持ちで大学にいらしてください。
後は色々と一緒におしゃべりしながら、「考えること」や「表現すること」とは何かを考え、表現していきましょう。
課題図書紹介 【ことばの習得と教育】 担当:坂内昌徳先生
・白井恭弘『外国語学習に成功する人、しない人』(岩波科学ライブラリー、2004年)
・竹内理『「達人」の英語学習法―データが語る効果的な外国語習得法とは』(草思社、2007年)
1.『外国語学習に成功する人、しない人』白井恭弘著
「何年も勉強しているのに英語が使えるようにならない」という挫折感を多くの日本人が抱えています。しかし一方で、英語を使って国際的な舞台で活躍する人もいます。成功と挫折を分ける要因は何なのでしょうか。そして、どういう学び方をすれば、英語が身につくのでしょうか。この本は、これらの問いに答えてくれます。
「これさえやれば英語が話せる」というような宣伝を見聞きすることがありますが、実は科学的根拠に基づいたものは少ないのです。外国語習得の研究者である著者は、これまでの研究で分かったことを紹介しながら、学習のコツを具体的に提示しています。「なぜ」を理解し「どう」すればいいかが分かれば、学習はしやすくなると思います。この本は、大学入学後も継続して学ぶ英語と、新たに学ぶ第二外国語の学習を支える一冊です。
2.『「達人」の英語学習法』竹内理著
「外国語は幼いうちに始めた方がよい」とよく言われます。実際、中学校で学び始めて最終的に高いレベルの英語力を手に入れる人が少ないことは、調査でわかっています。しかしこのことを逆に見ると、少数だが存在する、とも言えます。「達人」と呼ぶべきその少数派に、この本は注目します。彼らは一体、どのような学び方で英語をマスターしたのでしょうか。
第1~2章は、外国語習得に影響を与える様々な要因(年齢や性格など)について、研究で判明していることを紹介します。この部分は、白井氏の著書と一部内容が重なります。第3~5章は、達人たちが実際に行なった学び方の共通点を導き出し、効果的な学習方法を探り出します。そこからわかるのは、短期間で楽に英語が身につくような魔法はない、でも努力の仕方に秘訣はある、ということです。日本に生まれ、日本で普通の英語教育を受け、長期の留学経験もない人が、どうして英語の達人になれたのか、あなたも知りたくありませんか?
課題図書紹介【ことばとコミュニケーション】 担当:信太光郎先生
・鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』(ちくま文庫、2012年)
・橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』(ちくま新書、2002年)
「美しい」とはどういうことでしょうか。たとえば味が美しいこと、つまり「美味しい」とは。それが、甘い、しょっぱい、辛いといった感覚刺激の一種ではないことは明らかです。しかしどんな感覚なのかと問われると、答えに窮してしまいます。味覚刺激をどう掛け合わせようと、「美味しい」はでてきません。(「旨い」とは違います。「旨い」の素はれっきとした化学物質です)。実際、「美味しい」というのは、あなたが口腔や鼻腔や食道の粘膜で感じるようなものでないのです。それはむしろ、あなたの身体の外側にひろがる感覚です。いうなら、美味しいと「誰か」に言いたい、美味しいと「誰か」に分かってもらいたい、美味しいから「誰か」にも食べさせてあげたい、そういった感覚が「美味しい」です。それは人と人の「あいだ」で感じられる感覚なのです。一般に「美しい」という感覚は、人間が人と人の「あいだ」を生きる存在であることに関わっているのです。
人間がこうして「あいだ」を生きる存在であるということは、人間が「服を着る」理由も説明してくれます。服というのは、体温調整機能をになった動物の毛皮のような、単なる生きるための実用品ではありません。人間にとって「服を着る」ことの本質的な意味は、身体表面というものを拡張することにあります。人間において身体とは、上皮細胞と粘膜によって囲まれた領域のことではなく、その表面のごく近くに引っ掛かった布地(第二の皮膚)を通じて、外側へと広がっていくものなのです。人間はその拡張された身体表面において、冷温感や触感という生理的皮膚感覚にとどまらず、「誰かのまなざし」も感ずるのです。こうした独特の身体感覚をもっていることもまた、「あいだ」を生きる人間存在を特徴づけています。
以上のことを念頭において、橋本氏、鷲田氏の本を読んでみてください。
「課題図書 Part2」について
課題図書紹介 【文化のしくみ】 担当:津上誠 先生
・片倉もと子『イスラームの日常世界』(岩波新書、1991年)岩波新書[電子版も可]
・福岡安則『在日韓国・朝鮮人』(中公新書、1993年)[電子版も可]
「文化」とは、各社会の人々が共有するものの見方や考え方のことを言います。「文化のしくみ」では、芸術や思想のように高尚なものから、家族とか衣食住、恋愛、占いのように、そこら辺に転がっていそうなものまで、さまざまな事柄を「文化」の現れとしてとらえ、考察します。
「文化のしくみ」研究には、「異文化理解を通じて自分の文化に気づく」という基本姿勢があります。 『イスラームの日常世界』 を選んだのは先ずそのことをわかっていただくためです。イスラム教徒は、1日5回祈るとか、女がベールを被るとか、断食月があるとかいった、不思議な習俗を実践します。この本はそれらを具体的に紹介しながら、実は彼らには私達にはない「すごいところ」があるのだということを、次第に気づかせてくれます。
もしあなたの身近に、いつもあなたを気にかけてくれ、何もかも与えてくれ、賢い生き方を教えてくれる人がいたら、あなたはその人に喜んで従いたくなるはずです。イスラム教徒にとっての神とはそういう存在です。彼らの「すごいところ」とは、そういう存在を信じられるということです。個々の習俗は苦行ではなく神が教えてくれた理にかなった行為としてとらえられます。日々の生活は神と共にあり、意味に満ちあふれています。
この本を読んでいくうちにあなたは、「すごいところ」を持たず何もかも自己決定せねばならない私たちの方がむしろ苦しい生き方をしているのではないかと思えてくるかもしれません。このときあなたは自文化についてひとつの気づきを果たしたことになります。
さて、もう一つの本には 『在日韓国・朝鮮人』 を選びました。それは、差別といったリアルな社会問題に直面したときにも「文化」を考えることになるのだということに、ぜひ気づいていただきたかったからです。
この本では、「在日」の人々が、自分が差別的状況の中にあると少しでも自覚してしまった場合、色々な「生存戦略」を採ることが紹介されています。自分が「在日」であることを隠し、普通の「日本人」として通そうとする人がいますし、そもそも自分は「在日」ではなく祖国(北朝鮮や韓国)の人間なのだと位置づける人もいます。他方、自分が「在日」であることを隠したり否定したりしない人もいますが、そういう人々にも、自分は何よりも「在日」なのだと言って「在日」というカテゴリーをありのままに肯定させようとする人がいれば、自分は確かに「在日」だが、そもそも私が何人(なにじん)であるかは(例えば私が音楽家であるということに比べれば)さして重要なことではないと言う人もいます。
しかし、この本をじっくり読んでいくうちにあなたは、「在日」の抱える問題の根っこには、「日本人」自身が知らず知らずにとってしまいがちな「民族」についての思い込みがあることに、気づいていくと思います。それは、人々を「韓国朝鮮人」か「日本人」かのどちらかに分けたがり、どちらとも言えない曖昧な存在は許さないという、「日本人」自身がとりがちな分類法です。差別といった生々しい問題にも、「文化」すなわち社会の人々が共有するものの見方・考え方が、根底に横たわっているということです。
課題図書紹介 【日本の言語文化】 担当:原貴子先生
・柳父章『翻訳語成立事情』(岩波新書、1982年)
・石原千秋『『こころ』で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』(朝日文庫、2013年)
『翻訳語成立事情』
本書では主に、幕末から明治時代にかけて翻訳語がどのように生み出され定着していったか、に焦点を当てています。具体的には、「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」、そして、「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」です。前者は、翻訳のために新たにつくられたことば、もしくは実質的に新造語とみなし得ることばであり、後者は、従来日常的に用いられてきたことばに新たに意味を付け加えたものとされています。
著者は、このような翻訳語の成立史を明らかにする際に、辞書に記された意味の変遷のみを追うのではなく、人々の関わりのなかで生まれた「ことばの、価値づけられた意味」を重要視します。例えば、明治20年代半ばには、loveの翻訳語として「恋愛」が広く流通しましたが、「恋愛」は従来の日本の「色」「恋」とは異なるものとされ、「色」「恋」よりも高尚なものと受け止める人々もいました。著者はこうした翻訳語の使い方をめぐって人々の間に揺らぎが見られる段階に着目して、その段階におけることばの意味、「広い意味での文脈上の働き」を中心的に取り上げていきます。
本書は、societyなどをはじめとするそれまでの日本にはなかった新しい概念が西欧からもたらされた際に、当時の人々がいかに格闘して時に変容させながらも自らのものとしていったか、その過程を臨場感をもって味わわせてくれると言えるでしょう。本書を通じて、これまで何気なく使っていた日本語の歴史的背景の一端を知ることができます。
『『こころ』で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』
本書では、第1章~第3章にかけて『こころ』本文の精緻で時にスリリングな読解が展開されます。
第1章では、先生を「大人になれなかった」人物と捉え、先生は「Kを乗り超えることで「大人」になる儀式をすませようと思っていた」からこそ、Kの自殺に対して過度な罪悪感を抱くことに繋がったと著者は論じます。では、著者の言う「大人」とはどのような意味なのでしょうか。
第2章では、青年が、先生を乗り超えて「大人」になったために、先生の遺書には「妻には何も知らせたくない」と書かれていたにもかかわらず、先生の遺書を公表しようとしたと著者は論じます。
第3章では、静は、先生とKとの過去について「みんな」知っていた可能性があると著者は主張します。青年は、手記を書いている現在は、静に恋をして一緒に暮らす間柄になったために、実は静が「みんな」知っていたことを把握していると著者は考えます。
第4章では、『こころ』を漱石文学全体のなかで捉えています。著者は、漱石文学の多くは「遺産相続をめぐる物語」が主軸であると指摘します。著者の言う「遺産相続」には、「「真実」の相続」が含まれ、『こころ』は、青年が先生から「真実」の相続を果たした物語であると言います。
第5章では、朝日新聞社が期待した新たな新聞購読者層と夏目漱石が想定していた読者層の内実を明らかにしています。それが「ある程度の教育を受けた若い男性」であったからこそ、『こころ』を含む漱石文学では、女性という謎がよく扱われるのであると著者は結論づけます。
本書を通じて、小説を研究として読むことの奥深さや面白さを体験することができるでしょう。そして、小説のことばの意味を確定するには、その当時の文化的背景を調べる必要があることを実感できると思われます。
課題図書紹介 【中韓の言語文化】 担当:金亨貞先生
皆さんは、入学してから中国や朝鮮半島に関連する様々な授業を受けるでしょう。これらの授業を通して、メディアで接する皮相的なイメージではなく、良い面も悪い面も含め、当該社会のあるがままの姿について理解を深めていくことになるはずです。そして、それを通じて、「異文化との交流と共生」とは何か、真剣に考えてほしいと思っています。
以下の2冊が本年度の推薦図書となっています。少し難しいかもしれませんが、大学はいわゆる「学問の場」として、これからの皆さんに最も求められるのは、たくさんの本を読んで、批判的に思考することですので、ぜひ挑戦してみてください。
① 岡本隆司『中国の論理―歴史から解き明かす』(中公新書、2016年)
➁ 春木育美『韓国社会の現在―超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(中公新書、2020年)
① 『中国の論理――歴史から解き明かす』は、歴史・思想をテーマとした本です。いやはや、中国ほど不思議な国はありません。著者も述べていますが、何より言行不一致です。社会主義を標榜しているのに市場経済を取り入れ、いまや経済大国です。また、反日を主張しているかと思えば、大量の観光客が日本に押し寄せてきます。本書はそんな中国、中国人がいかなる論理(思考方法)で行動しているのか、主に歴史書や思想書の記述から迫るものです。古い時代から新しい時代まで(なんと孔子から毛沢東まで)、かなり長いスパンで対象を観察しているところも魅力です。
➁ 『韓国社会の現在―超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』は、少子高齢化、貧困・孤立化、教育、ジェンダーなどを中心に、韓国社会が抱えている諸問題の現状と、打開への模索や試行錯誤を描いた本です。今日世界の各国で最も注目されている課題は「格差」の問題です。ここで格差とは、所得、教育、雇用、情報、世代、男女、地域など、様々な面から生じるものを意味します。この本では、統計資料などの客観的な指標を示して、一貫してこの格差の問題を扱っています。その社会的脈絡を理解し、解決するために取り組んでいる韓国人の悩みを共有することによって、日本社会が直面している問題についても有意義な示唆を得ることができると思います。
課題図書紹介 【英米の言語文化】 担当:井上正子先生
・池上彰『そうだったのか! アメリカ』(集英社文庫、2009年)
・コリン・ジョイス『「イギリス社会」入門』(NHK出版新書、2011年)
「英米の言語文化」のジャンルでは、イギリスとアメリカに関係する文化、文学、歴史、思想、政治、経済など様々なことを学ぶことができます。関連する科目として、「アメリカの言語文化論(2年次)」、「イギリスの言語文化論(2年次)」、「原典講読(3年次)」、「言語文化学演習(3年次)」、「総合研究(4年次)」が用意されています。ことばとしての英語の言語表現と機能を学び、それと同時にことばの背後にある意味をさまざまな視点から分析・研究することによって、英米の言語文化のもつ特質を学ぶことができます。
次に推薦図書について簡単に紹介します。
(1)池上彰著『そうだったのか!アメリカ』(集英社) は、よくあるアメリカの紹介本とは違い、池上氏が現代のアメリカが抱える問題を分かりやすく解説しています。9章で構成されていて、アメリカの「宗教」、「連合国家」、「帝国主義」、「銃」、「裁判」、「移民」、「差別」、「経済」、「メディア」について、豊富な資料をもとに多角的な視点から解説されています。読んだあとに読者が「そうだったのか!」と驚かされ、アメリカを十分に理解できる内容になっています。
もう一つの書物は、(2)『「イギリス社会」入門―日本人に伝えたい本当の英国』(NHK出版新書) です。著者はコリン・ジョイスという英国人ですが、大学卒業後に日本とアメリカに18年以上も滞在した経験を持っているため、自分の国の文化―例えば、お酒やパブ、コーヒー文化、歴史、イギリス英語とアメリカ英語の違いなどを、日本やアメリカの文化と比較しながら客観的に説明しています。ただ単に自国の文化の優れた点を強調している他の書物と違い、ユーモアを交えてイギリスの良いところも悪いところも均等に説明している入門書です。
(1)と(2)の書物は、本学の言語文化学科で他国の言語と文化を学ぶ方法のヒントを与えてくれる非常に役立つものです。
課題図書紹介 【独仏の言語文化】 担当:宮本直規先生
・小田中直樹『フランス7つの謎』(文春新書、2005年)
・新野守広・飯田道子・梅田紅子『知ってほしい国ドイツ』(高文研、2017年)
フランス文化の紹介は、文学、絵画、音楽,映画などの芸術を題材として無数の書物が書かれてきましたし、また食文化やファッション関係の解説書も数多く存在します。しかし、それ以外の関心を持って留学した人が、実際にフランスに住んでみて感じたギャップやカルチャーショックを正直に記した本は意外に少ないのではないでしょうか。
本書は、フランスの社会経済史を専門とする若い研究者がフランスに長期滞在したときに感じた、日常生活の疑問を率直に語り、その答えを探る内容になっています。いわば、日本の一般市民の視点を保ちながらのフランス体験記であり、知ったかぶりや無条件のフランス礼賛とは無縁です。
一読すれば、頑固なフランス人気質が、グローバル化の波の中でどのような軋轢を引き起こしているのか、よくわかりますし、日本の社会と比較することによって、フランスの現状だけではなく、日本社会の常識を考える視点も与えてくれます。
一方、「ドイツの言語文化」の課題図書は、『知ってほしい国ドイツ』(新野、飯田、梅田編著、高文研、2017、1700円)という本です。ドイツの文化や歴史について、入門者にも分かりやすく解説した本は現在数多く出版されていますが、この本もそうしたものの一つです。
ドイツのペット事情やビールへのこだわりといった「ドイツ文化あるある!」的な記述でスタートし、第2次世界大戦を境としたその前後のドイツ文化の点描が続き、ヒトラーとナチズムについての章を経て、難民問題、脱原発、EUとの関係といった極めて現代的なテーマによって締めくくられます。特に第2次世界大戦前夜からヒトラー、ナチス、東西ドイツ、ドイツの再統一という近現代史の流れは、言語文化を志す皆さんには是非とも読んでおいてもらいたい部分です。
「知ってほしい」というタイトルが示すとおり、ドイツのことを「知りたい」と思っているみなさんには格好の入門書であることは確かなのですが、個々の部分では入門書の枠を超えた、突っ込んだ記述になっていることもまた事実です。しかし巻末には時代毎のドイツの地図や簡単な年表もついていますし、その気になればネットやスマホを駆使して未知の概念を調べながら読み進むことも可能なはずです。今のうちに、ぜひそうした読書のあり方にもチャレンジしてみて下さい。
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