2016年11月24日木曜日

 

【コラム1】「福島弁と韓国語」ー松谷基和先生ー

これから言語文化学科の先生によるコラムの連載をスタートすることになりました。言語と文化についての貴重なお話しをお届けしたいと思います。第1弾としては、韓国・朝鮮語を教えている松谷先生から「福島弁と韓国語」という原稿をいただきましたので、どうぞお聞きください。

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今からもう20数年前のことである。私は韓国の延世大学に交換留学生として1年間留学した。当時は韓流ブーム以前の時代であり、韓国に対する世間の関心は薄く、韓国に留学する学生も少なかった。ましてや、私の通っていた国際基督教大学(ICU)は英語教育が評判なこともあって人気の留学先は欧米であり、韓国を選ぶ学生は「変わり者」であった。また、韓国に留学する場合でも、現地では英語による科目履修が想定されており、韓国語の能力は選考基準に含まれていなかった。そもそも、当時は、ICUのカリキュラムに韓国語の科目は存在せず、留学前に韓国語を学ぼうにも大学では学ぶ機会すらなかったのである。

当時の私は、こうした英語さえできれば、英語圏でなくても留学できるという制度が英語中心主義の象徴のように思われ、現地語を学ばないまま留学することに抵抗を感じた。幸いなことにICUからそう遠くない所に「アジア・アフリカ語学院」という語学の専門学校があったため、そこに通うことで、私は初めて韓国語の学習の機会を得たのであるが、今日では第二外国語で韓国語を学べる大学が多数であり、まさに隔世の感がある。

ところで、私が当時、反発を覚えていたのは、実は英語中心主義ではなく、日本語の標準語中心主義であった。私は福島市で生まれ育ち、祖父母との会話量も多かったせいか、同世代の人間の中でも福島弁が得意な方であった。しかし、当時、東京の大学に進学する地元の高校生は、上京する前から福島弁を矯正するのが常であり、福島弁は都会では隠すべきものと考えられていた。私は標準語を習得しようとする人々の努力を全否定するつもりはなかったが、その理由が福島弁を話す奴は田舎臭くて「みったぐねえ(みっともない)」という自虐的な価値観にあることを知っており、そうした価値判断をする奴こそ「みったぐねえ」と反発心を燃やしていた。実際、私は大学進学後、キャンパスで見かけた「大九州言語会」という九州出身者による「方言飲み会」の存在に刺激されたこともあり、岩沼出身の友人と「奥州連合」なる看板を掲げて、東北人同士の「方言飲み会」の立ち上げ者となった。

こうした私の「母語」である福島弁へのこだわりは、その後、意外な形で私の韓国語習得を助けることになった。というのも、韓国語(正確には「ソウル標準語」)では、一般的に単語や文章にはアクセントや抑揚をつけずに平らに(フラットに)読むことが求められるのであるが、これが福島弁に似ており、何ら違和感を覚えなかったのである。

実際、これは言語学的にも裏付けられるようである。というのも、福島に限らず南東北(仙台も含む)は、言語学的分類調査によれば、いわゆる「無アクセント地帯」に属し、その特徴は、文字通り、単語にアクセントをつけず、抑揚のない平板型のイントネーションで話すこととされる。つまり、韓国語も南東北の方言もイントネーションの基礎が共通なのである。

それに加えて、私の観察では、「あつい」を「あづい」、「なめこ」を「なめご」、「かたち」を「かだぢ」と発音するように、二音節目以降の子音を濁音化させて発音する福島弁(南東北弁一般もそうであろう)のパターンも韓国語と同様である。例えば、韓国語の「行く」という単語はスペル上では「カタ」であるが、実際には「カダ」と二音節目の子音は濁音化させて発音するのである。要は「平板型アクセント」+「子音の濁音化」という発音上の規則が、二つとも韓国語と福島弁に共通しているのである。

私が留学して間もない頃、ある韓国語の先生から「私は長年、日本語母語者に韓国語を教えていますが、松谷さんは日本語母語者が苦手とするアクセントやイントネーションにほとんど問題を感じていないようですね。どうして、松谷さんだけ、そうなのか私には不思議です」と言われたことがある。その時は自分でもあまり意識しなかったのだが、後年、私と同様に福島弁の使い手である妹が韓国に留学した際にも、全く同じことを言われたという話を聞き、やはり、これは偶然ではなく、韓国語と福島弁の間には言語学的共通性があるためではないかとの思いが強まった。おそらく読者の中にも、韓国語を聞きながら何となく濁音が多く、どこか東北弁と近いと感じたり、逆に韓国人の話す日本語が何となく東北人の訛りのように聞こえたりした経験がおありではないだろうか?ぜひとも、本学で韓国語ないし言語学に興味を持つ学生には、このテーマについて本格的に探求して欲しいものである。

さて、近年、東北に限らず、どの地域でも日常生活から方言が失われ、イントネーションも標準化されつつあると聞く。私の思いとは別に、世の中は、益々、内には日本語中心主義、外には英語中心主義に流れていき、日本語と英語ができることが「バイリンガル」と称賛される風潮も強まって行くのであろう。しかし、私が思うに、方言と日本語を話せれば、これは立派な「バイリンガル」である。そして、こうしたバイリンガル感覚の持つ人の方が、実は他言語/多言語を学ぶ上で有利な面もあり得るのである。方言に囲まれて育ち、今でも多少は方言を操れる学生諸君に伝えたい。「君、方言を捨てたもうことなかれ」と。

投稿日:2016年11月24日カテゴリー

2016年11月19日土曜日

 

東北地域韓国語弁論大会で受賞!

去る11月12日(土)は、仙台韓国教育院・駐仙台大韓民国総領事館主催による「第七回 東北地域韓国語弁論大会」が開かれました。総領事や民団関係者のような外交の第一線で活躍する方々をはじめ、応援に来てくださった多くの方々を入れると約100名の方たちが集まる盛会となりました。


 弁論大会は韓国語で5分程度のスピーチを行うというもので、内容は韓国語、韓国文化、日韓交流に関するものであれば主題は自由です。

第一部では中学・高校生部門で、仙台だけでなく、岩手県や山形県からも韓国語を学習している生徒10人が発表を行いました。第二部は成人部門で、言語文化学科3年生の野呂志緒里さんは「보이는 기술보다 우선은 자신의 정신부터(見える技術より、まずは自分の精神から)」というテーマで発表をしました。今年、韓国に旅行をした時、自分の人生を変えるような貴重な出会いがあり、その経験に基づいての発表でした。同じく言語文化学科3年生の庄司有里さんは「한국인의 정(韓国人の情)」というテーマで、1年間韓国の梨花女子大学に交換留学に行った時に感じた韓国人の「情」というものに関する発表でした。

そして、野呂さんは銅賞、庄司さんは銀賞という好成績を収めました。


出場者たちは、これだけの長い韓国語の文章を、しかもたくさんの人の前で話したことがなく、少しは緊張したようでしたが、それでも日頃の学習成果を存分に発揮することが出来ました。出場者にとってはいい経験になったと思います。


それでは、野呂さんからのコメントをもらいましたので、どうぞお聞きください。

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ヨロブン、アニョハセヨ〜

今回、東北地域韓国語弁論大会に参加できたこと、自分にとって、とても良い経験になったと思います。

この大会に出るようになったきっかけは、私が出たいと思って出たわけではなく、韓国語の授業の先生に声をかけられ、大賞をとればソウル行きの航空券がもらえると聞き、やってみようではないかという思いで、出るようになりました(笑)

みなさんは、大学生活、楽しくお過ごしですか?私は、大学生1,2年の時、どうしたら充実したキャンパスライフを送れるのか、ずっと疑問に思って過ごしてました。大学の授業は楽しかったけれど、それだけで満足感を得ることはできませんでした。そんなある時、韓国に旅行しに行った時、すごく良い出会いがあって、私が悩んでいた悩みの答えをすっきりするぐらい得るようになりました。今回、そのことをみんなにも共有したくて、弁論の題材にさせていただきました。

大会当日はとても緊張しましたが、いつもお世話になっている金永昊先生、松谷基和先生からたくさんのご指導いただいていたので、自信を持って発表することができたと思います。恵まれた環境の中で、弁論大会に出場できたこと、感謝です。

次の機会に、少しでも関心のある方は、自分の思いを韓国語で伝えてみてはいかがですか^^?自分が成長するのにとても良い経験になると思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。言語文化学科3年生 野呂志緒里

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私は交換留学生として韓国の梨花女子大学に一年間留学していました。留学をすることは高校生からの夢だったので、韓国で過ごした一年間はとても充実していました。梨花女子大学は韓国でも有名な女子大学の1つで、様々な学科があるため興味のある授業をいろいろ受ける事もできました。更に梨花女子大学は一学期におよそ400人ほどの留学生を受け入れてます。そのため一度にたくさんの国の人達とも友達に
なることもできました。しかし、後悔してることといえば積極的に韓国語を喋らなかった事です。当時頼りにできる友達もいませんでしたし、思ってたより校内で韓国人の友達を作ることができませんでした。そのため韓国語を喋る機会があまりなく、日本人や外国人の友達と遊ぶことが多かったです。留学中にもっと韓国語を頑張ればよかったと少し後悔していたことが、今回弁論大会に出場した理由です。一年間の留学をしただけで終わらせるのではなく、何か次に繋げられるものをやらなくてはと思い、自分が韓国で体験したこと、感じたこと、韓国の魅力などを弁論大会を通して伝えたいと思いました。私は半年を大学の寄宿舎、半年を下宿で過ごし、下宿先のおばさんの話を中心に韓国人特有の情について話しました。弁論大会に向けて練習する際には韓国語担当の金永昊(キムヨンホ)先生、松谷先生に的確なアドバイスを頂き、その他にも韓国で出会った韓国語の先生や韓国人の友人達に発音の練習など手伝ってもらいました。大会当日はたくさんの方々のおかげで、会場に来ていた方にも楽しく聞いてもらうことができ、自分自身も堂々と楽しく話すことができました。結果的に銀賞という素晴らしい賞を頂くことができ嬉しい気持ちでいっぱいですが、自分のためにたくさんの方々が協力し応援してくれたことと、韓国語の勉強って楽しいな、韓国が大好きだなと改めて感じることができ、弁論大会に参加して本当に良かったと思います。まず何かに挑戦することから始まると思うので言語文化学科のみなさんもいろいろなことに挑戦してみてください。これから私もこれにとどまらず、向上していけるように努力していきたいです。

言語文化学科3年生 庄司有里

投稿日:2016年11月19日カテゴリー